Raindrop
「ママにお願いすれば、どんなに下手でも一番取れますよーってか」

「羨ましい~。俺もエライママが欲しいねぇ」

けらけらと、笑い声。

雨降る外の空気よりももっと濃い、粘着質の強い不快な音だ。

くだらないが──仕方ない。

国際的指揮者と天才ヴァイオリニストの息子。

その肩書きは常に僕の眼前に立ちはだかり、背中に付きまとう。

どんなに優れた演奏をしても、小さい頃から英才教育を施されているのだから当たり前だと。

『あの』橘の血を引くのだから当たり前だと。

そう言われるのが常。


だから、問題ない。

こんなことは日常茶飯事。

被せられる泥水は、軽く振り払えばいい。


そう思って一歩踏み出そうとした僕の耳に。

ガツン、と。

激しくドアが鳴り響く音が聞こえた。

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