Raindrop
もっと突っ込んで話したそうな響也の視線に気づかないフリをして、楽譜を広げる。

2時間という限られた時間。

無駄にはしたくない……。





そんな会話をした次の日。

午前中からジリジリと照り始めた太陽から逃れるように、エアコンの効いた室内で水琴さんのレッスンを受ける。

花音にも拓斗にも細かい指摘をする水琴さんは、僕にはほぼ何も言ってこない。

“弾けている”──と。

それ以上教えることはないと……まるで、突き放されているような気さえしてくる。


「……はい、良いですよ」

曲を弾き終えた僕を、水琴さんは相変わらずのふわりとした微笑を浮かべて見ている。

「あの……」

まずは何から言おうか。

2時間という練習時間を増やしてもらうこと。

悪いところは的確に指摘して欲しいということ。

まったく満足のいく演奏が出来ていないこと。

それに対し、僕はどう対処したら良いのか、ということ──。

僕がそんなことを考えていることなどお見通しと言うように、水琴さんはクスリと笑った。

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