Raindrop
「今日も鐘の音は聞こえなかったかしら? 貴方の演奏なら、プロでも満足出来るレベルなのに……」

「……自分が納得出来なければ」

「そうね、意味がないのね」

水琴さんは頬に手をあて、しばらく思考を巡らせているようだった。

「ん~、どうやら休むだけでは駄目ね。和音くん、最近全然遊びに行ったりしていないんでしょう?」

「それは……はい、そうです」

僕は拓斗のように友人と遊びに出かけたりするよりも、家にいることの方が多い。

最近は良く外に出るけれど、それも『fermata』で練習をするためだ。

「学校と家を往復、って感じだったのかしら?」

「そうですね」

「そう、分かりました。じゃあねぇ……明日の予定は空いてる?」

「僕ですか? ええ……特に予定はありませんけど」

『fermata』で練習をしようとは思っていたけれど。どうせ2時間しか練習出来ないのだから、時間はあり余っている。

そう思って答えたら、水琴さんは頷いた。

「じゃあ明日、私とお出かけしましょう」

「……は?」

「私とデート、してくれる?」

緩く波打つ栗色の髪を揺らしながら微笑む彼女を、僕はしばらく呆けた顔で見ていた。



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