Raindrop
『デート』だなんて。

なんと唐突な展開だと、一瞬だけ思ったけれど。

言葉通りの甘いものなどではないことにすぐに気づいた。

次の日、水琴さんとの待ち合わせ場所である最寄りの電車の駅へ向かったのは、僕だけではない。

「どこに行くのかなぁ?」

ショルダーバッグにくくりつけたウサギの五所川原を揺らしながら、花音が僕の後をついてくる。



──水琴さんは『デート、してくれる?』と聞いたそのすぐ後に、『もちろん、花音ちゃんと拓斗くんもね』と付け足した。

『休むだけでは駄目』らしい僕の演奏に、何か打開策を思いついての言葉だったのだろう。

あくまでも『先生』として、『生徒』の勉強のためのお誘いというわけだ。

……一瞬でも戸惑った自分が恥ずかしい。



「どこだろうね。行き先は聞いてないんだ」

「そうなんだぁ。でも、楽しみだねぇ」

にこにことしている花音の隣で、拓斗も目をキラキラさせている。

「電車かぁ。初めてだね、電車」

弾んで今にも飛んでいきそうな足取りは、まるで遠足へ向かう子どものようで、思わずクスリと笑ってしまう。

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