Raindrop
このままだと本当に殴りかかりそうだ。コンクール前の、大事な手で。

「……響也、その辺で」

胸倉を掴む響也の手にそっと手を添えると、響也は眉間に皺を寄せ、ギンッと目を吊り上げたまま僕を見た。

野生動物さながらの眼光の鋭さ。

その顔で凄まれたら、ロクに言い返せずに震えるしかないクラスメイトの気持ちも分かるな。

クスリと笑ってみせたら、響也も目をぱちりと開け、怒りの顔を和らげた。

それで手の力が緩んだのか、クラスメイトの身体は開放され、椅子や机を弾きながら床に転がった。

「ぼ、暴力はいけないんだぞっ……」

転がったクラスメイトに駆け寄った者たちが、震える声で響也に訴える。

「何が暴力だ。お前らのも立派な『言葉の暴力』だ、バーカ。刃物振るったらやり返されても文句は言えねぇんだぜ。それくらい、分かるよなぁ?」

ぐっと押し黙ったクラスメイトたちは、カバンを持つと潮が引けるように逃げていった。

「ふん、腰抜けどもが」

鼻を鳴らす響也に、思わず笑ってしまう。

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