Raindrop
ぱたり、と。

薄い色素の髪の隙間から見える、小さな光の粒。

雨音に混じり、溶け込んで消えてしまう小さな音は、水琴さんの白い手の甲に落ちて、弾けた。


教会。雨だれ。幸せ……。

どこかに彼女の心の琴線に触れてしまう言葉があったのかもしれない。



──僕は。

水琴さんとの関係に、先生と生徒以上のものを求めているわけではなく。

それ以外のプライベートなことにも興味はなく。

ここに僕たちを連れてきた理由も、あの新郎との関係だって、“たぶんこんな感じ”という曖昧なもののままで全然構わないと思っているけれど。

さすがに隣で泣かれたら、無視は出来ない。



それでも水琴さんは、これ以上僕に迷惑をかけたくないと思ってくれているようで、普通に話しかけてきた。

「ショパン、で思い出したけれど……夏休みが明けたら、大学でグルコンをするのだけど……そこで、やるのよ、『雨だれ』……」

「……そうなんですか」

「弦楽四重奏(カルテット)に、してあるんだけど……そうだ、今度、和音くんたちにも……」

少しだけ間を置いて、更に続ける。

「拓斗くんと、花音ちゃんと。4人で一度、やってみない?」

俯いたことで落ちた髪で、顔は隠れているけれど。分かりやすく声が掠れている。

それに気づかないフリをしろと、言うのだろうか。

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