Raindrop
これが花音や同級生だったなら。

僕はためらいなくその頭を撫でるなり、肩を抱くなりして慰めの言葉を口にしていただろう。

けれども水琴さんは大人の女性だ。

“子ども”の僕が“大人”の彼女に触れるのは、許されないことだろう。


「私ね、和音くんに、もうひとつ……教えたいことが、あって」

途切れがちな言葉に気づかないフリをしながら、何も感じないでいることは難しい。

「僕に足りない部分、ですか?」

訊きながら、握る拳に力が入る。

「みんなで演奏してみたら、良いかもしれない。今度……いえ、明日、楽譜を持っていくわね。……きっと、鐘の音を表現出来るように、してあげるから」

微かに漏れる笑い声すら、震えているのに。

僕はただ、気づかないフリを、するだけだ。

「……ありがとうございます。僕も……頑張ります」

「ふふ、頑張りすぎちゃ、駄目なのよ……今の貴方は、心を、休めないと……」


──貴女にも、それが必要なんじゃないですか。


喉元まで出かかったその言葉は、静かな雨音の中に、吸い込まれていった。



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