Raindrop

暑い最中歩き回ったのと、精神的にも少し疲れて帰ってくると、西坂が水分補給に、と特製フルーツジュースを作って待っていてくれた。

それで少しリフレッシュしてから、練習室のある地下に下り、そこの書架にある『雨だれのプレリュード』の楽譜を取り出した。

これを弾いたのは小学生のときだ。

一応暗譜してあるけれど、念のために確認しておこう……と眺めていると、静かな雨音と水琴さんの俯き加減な姿を思い出してしまった。

軽く頭を振って、それを振り払う。



「あ、兄さん。お風呂空いたよ」

地下から一階に上がったところで、タオルで頭を拭きながら歩いていた拓斗と遭遇した。

「ああ。花音は?」

「先に入ってもらったよ。眠そうだったから、もう寝ちゃったかも。疲れたんだろうね」

「そうか。……拓斗もお疲れ様」

そう言うと、拓斗は苦笑した。

「しばらくダダこねてたけど、司教様のお話を聞いてたら、眠くなっちゃったみたいだよ」

頷いているように見えた花音の頭は、眠っていただけなのか……と、僕も苦笑。

「そんなに難しいお話だったのかい?」

「うーん……最初は僕も良く分からなくて。そうしたら、司教様が興味のあるお話をしてあげようって言ってくださったんだ。それで花音が『愛ってなんですか』って訊いたんだけど……」

「ああ、結婚式を見た後で興味があったのかな」

「たぶんね」

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