Raindrop
「それで、どんなお話をしてもらったの?」

「うーん……色々たくさん、言われたんだけど……愛を伝えれば、それがだんだん周りの人に広がっていくんだっていう話は良かったかな。あとは、我慢だとか耐え忍べとか言われたよ。なにかの修行みたいだね」

「ああ、コリント第一の13章あたりのお話をしてもらったんだね」

そう言ったら、拓斗は丸い目を更に丸くした。

「……兄さん、聖書も読んでるの?」

「父さんの書斎にドイツ語のものがあるんだよ。それを寝る前にちょっと」

「意味分かるの?」

「分からないときは日本語版を」

「兄さんは凄いなぁ……」

拓斗はそう言って目をキラキラさせる。

「大したことじゃないよ」


そう、大したことではないのだ。

将来を考えれば、英語を含めたヨーロッパ圏の言語をすべて覚えておいた方が、コミュニケーションが取りやすくて良いだろうから。

実際、両親はほとんどを話せるし、聞き取れる。

特に父は指示を出すのに、身振り手振りだけでは追いつかないからと、大人になってから覚えたのだ。

子どものうちの方が吸収率が高いと聞くし、凄いのは父の方だ。

そんな彼らに追いつき、追い越すためには、それ以上の努力が必要だ。

覚えたいことは山のようにある。知識も、技術も、音楽に……将来に役立つものなら、なんでも。


まだまだ足りなくて、穴だらけで、でもそんな僕を拓斗はキラキラとした目で見てくれる。

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