Raindrop
「ううん、兄さんは本当に凄いよ。兄さんの努力には天井が見えないもの。先が見えないくらい、どこまでも伸びていくんだ。そういうの、僕には出来そうに、ないなぁ……」

いつも真っ直ぐに努力する拓斗にしては珍しい言葉に、思わず首を傾げる。

最近メキメキと上達し、僕を凌駕しようとしている彼から出るにしては、弱気すぎる発言だ。

「拓斗の努力も凄いと思うけれど? 最近また上達したじゃないか」

「えへへ、兄さんに褒められると嬉しいけどさ」

そう言って笑った拓斗は、軽く頭を振った。

「僕の話はいいよ。それより、今日の……」

「うん?」

拓斗はじいっと僕の顔を見て、少し顔を赤らめる。

「……僕、知らなかったよ。いつから水琴先生と付き合ってたの?」

「……は?」

「だって……」

拓斗はモジモジしてそれ以上口にしなかったけれど、言葉にしなくとも分かった。



だって、水琴先生と手を繋いで歩いていたじゃないか。

兄さんは凄いなぁ。

あんなに綺麗な年上の女性と付き合えちゃうんだ。なんて大人なんだ。兄さんは凄いなぁ。尊敬しちゃうなぁ。


……そう、顔に書いてあった。


前言撤回だ。

拓斗は何も把握していなかった。

単に勘違いをしていただけだった。


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