Raindrop
そうか、そう勘違いされるのか。

……そんなことに今更気づいて。

けれど、水琴さんの状況を説明するのも憚られて。

軽く否定するだけにとどめたら、次の日も拓斗の僕に向けらられる尊敬の眼差しは変わることなく、そして花音のじとーっとした目も変わることはなかった。


2人にとっては手を繋いだだけでそういうことになってしまうのか……と迂闊な行動に反省しつつ、今日も教えにやってきてくれた水琴さんを迎える。


なんだか恥ずかしそうにして水琴さんと目を合わせられない拓斗と、やたらと頬を膨らませている花音に首を傾げつつ、水琴さんは昨日言っていた『雨だれのプレリュード』の楽譜を僕たちに配った。

「今日はね、いつもと少し違う練習をしてみようと思います」

楽譜を配り終え、水琴さんは僕たちひとりひとりと視線を合わせながら言った。

「兄妹でセッションとか、時々すると思うんだけど……それと同じように、お互いの音を良く聴きながら曲を作り上げていきましょう」

ふわりと微笑む水琴さんからは、昨日の悲壮感は感じられない。

あの通り雨が嘘だったのではないか。

そう思わせるくらい、眩しく輝く太陽と同じ。

すっかり元通りというか、昨日の彼女が夢だったような気さえするくらい、いつも通りだった。

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