Raindrop
──なんだろう。

掴みそうで掴み切れない、ふわふわとした妙な感覚に捕らわれる。


『和音くんに、もうひとつ教えたいことが』


昨日、俯きながらもそう言っていた水琴さんの言葉を思い出す。

水琴さんの教えたいこと。

それがこの曲の中にあるのだろうか?


「それじゃあ、もう一度。今度はもっとお互いの音をちゃんと聴きながらね」

水琴さんは全員の顔を見ながらそう言うけれども、特に僕に向かって強い視線を投げてくる。

やはりこの曲を演奏することに何か意味があるのだ。

それならば気合を入れなければ、と弓を構えると、

「力を入れすぎないようにね」

と、釘を刺された。

「リラックスして、楽しんで」

ふわりとした笑みで、そう言われて。

眉を潜めた顔を見られないように、少し俯き加減に演奏をした。


二度目は花音も演奏を辞めることなく、拓斗もチェロに慣れたようで、それぞれの音がきちんと響きあった。

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