Raindrop
「ちゃんと弾けました、先生~!」

花音がにこにこと笑いながら報告する。

「ええ、凄く良くなったわ。次はもっと良くなるわよ」

「じゃあもう一回!」

膨れていた頬はいつのまにか元通り。

ちゃんと弾けることが嬉しいと、花音は笑顔で弓を構えた。

拓斗もそんな花音に笑みを浮かべ、構える。

みんな楽しそうだと、そう思う僕も自然と笑みが零れた。

「それじゃあ、もう一回ね。いい? よーく他の人の音を聴くのよ。一人で行ってしまっては駄目よ?」

そう言う水琴さんも笑顔だけれど……視線が僕にきているような気がする。

……もしかして、合わせられていないのは僕だろうか。

ここにスランプ打開への糸口があるのなら、しっかりと拓斗や花音の音を聴かなければと、密かに力を入れる。


一番下の低音を支える拓斗の音。

ヴァイオリンとは違うけれど、やはり拓斗の音は芯のブレない真っ直ぐな音だ。

楽しそうに弾く花音の音は、ショパンの甘やかさを的確に捉えている。だけど、もう少し押さえてくれるといいかな。これでは、水溜りに長靴をはいて飛び込む子どもの散歩だ。

クスリ、と笑みを零すと、水琴さんと目が合った。

静かに、規則的に雨音を鳴らす水琴さんのヴィオラは、僕たちの音を両手で引っ張って、繋ぎ合わせている。

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