Raindrop
ほどなくして、中間部分に差し掛かり変調する。

拓斗のチェロが表現する不安に引き摺られるように、僕と花音も雨音の中へ入っていく。

重なり合っていく不安。

煌めかなくなった教会のステンドグラスに、灰に染まるキリスト像。次第に強くなる雨に、徐々に不安と恐怖心を募らせて、溜め込んで、そして爆発させる──。


今までで一番、音が綺麗に重なった。

ぞくりと肌が粟立ち、身体中に電流が走る感覚を覚える。


「あ──」


無意識のうちに弓を持つ手が止まる。

拓斗や花音が驚いたような顔で僕を見た。

「お兄ちゃん?」

「兄さん、どうかした?」

そんな2人を見る僕の顔もたぶん、驚いたような顔をしている。

「あ……いや、すまない、止めてしまって……」

まだ粟立つ肌を拳で擦り、軽く息を吐き出す。

「じゃあ、4小節手前から」

そう言う水琴さんは穏やかな笑顔で僕を見ていて……ああ、そうか、と思った。


この感覚。

これが欲しかったんだ。

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