Raindrop
楽しそうに弾く花音、真っ直ぐに向かってきてくれる拓斗。

重なり合う『雨だれ』の旋律は、まるで僕たちのよう。

僕が先頭を歩き、その後ろをたどたどしく花音がついてきて。そして拓斗が影から支えてくれている。

これは今の僕たちそのもの。

そして、僕が一番リラックスしていられる空間なのだ。

程よく力の抜けた状態で、自然に湧き出す音を重ねていく心地よさ。

みんなと視線を合わせながら、音──いや、呼吸を合わせ、ヴァイオリンで歌うことの楽しさ。

ああ、これだ。

久しく感じていなかった感覚が、指先から、身体中から伝わってくる。


“楽しい”。

音を奏でることが。

楽しくて仕方ない。



時折目が合う水琴さんは、歩き続ける僕たちを一定のリズムで見守ってくれている。

それは心を満たす優しい雨音。

恋人を想うショパンの、甘くて愛しい雨が降る。



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