Raindrop
コンクールが終わり、夏休みも終わり、そして穏やかながら忙しい二学期が始まった。

通常の学校の授業、コンクール上位入賞者によるコンサートの練習、ソロコンサートへ向けての準備……。

ソロコンサートを機にプロの道へ進まないか、という話もあったけれど。

僕が断る前に、母に断られた。

母は僕を育てる最終段階に、自分の弟子にして演奏旅行に連れて行く、という計画を随分昔から立てている。

プロとしてデビューさせるのはその後だ、とも。

僕もひとまずの最終到達点はそこだと考えているので、まだまだプロデビューは先の話だ。

まだ……たくさん、覚えたいことがあるから。




天高く馬肥ゆる季節。

僕は相変わらず『fermata』に出入りしていた。

最初は拓斗の音から逃げるための場所としての意味合いがあったこのジャズバーも、最近では少し、変わってきている。



それは、夏の終わりの出来事だった。

コンクール後、花音の敵討ちの一端を担えなかったと軽く落ち込んでいた響也だったが──しかし6位入賞しただけでも凄いことだと思う──ある日を境に急に元気になった。

珍しく僕たちがいる時間にやってきたマスターの横に並んで、やけにニヤけた顔をしていると思ったら。

「和音くん、ピアノ弾けるんだよね?」

マスターにそんな質問をされた。

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