Raindrop
「ええ、一応は」

「なんて言って、小学んときにすでにジュニアチャンプだから」

響也が僕の後ろからそう付け足す。

実は、ヴァイオリンと同じくらい、ピアノは好きだ。

習い始めたのは音大の入試に必須だから、なのだけれど。

「それは凄い。それなら、ちょっと頼んでもいいかなぁ……」

「ああ、いいよいいよ」

何故か響也が代わりに返事をする。

「……どうかしたんですか?」

「うん、実はね、今度南口の広場で音楽フェスティバルがあって、そこに僕たち出ることになってるんだよ。でもピアノの子がどうしても都合がつかなくてね。余裕があるなら、君に頼もうかと思ったんだけど……」

どうかな? と自慢の口髭を指先で撫でながらマスターは言う。

「……構いませんが、僕はジャズは弾けませんよ?」

「うん、そこは分かってるんだ。ただ弾くだけでいいから、お願い出来ないかな?」

「そうですね……学校じゃない日なら」

「そうかい! 来週の土曜日なんだよ。夕方……まあ、僕たちの出番はたぶん8時くらいになるんだけどね、遅くなっても平気かな?」

「そのくらいなら大丈夫です」

「良かった、助かるよ!」

マスターは僕の手を握って礼を言うと、さっそく楽譜を出してきた。

『いつか王子様が』、『アメイジング・グレイス』、『オール・オブ・ミー』。どれも聴いたことのある曲だ。

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