Raindrop
マスターのおかげか、随分弾きやすくなった。この間水琴さんたちとカルテットをやったときのように、周りの音を聴きながら、それに合わせて弾いていると……。

「甘いな和音」

響也がいきなりテンポを変えた。

マスターも苦笑しながら響也に合わせる。

賛美歌の欠片もない、慌しく駆け抜けていく激しい音。

自由すぎるその音に、正直ついていくのがやっとだ。

「ほう~、さすがだね和音くん、もうなんとか形になっているよ」

「和音は音の天才だからな」

僕の代わりにそう言った響也は、ヴァイオリンを置くと、カウンターの上に投げてあった鞄の中から五線譜ノートを取り出した。

「なあ、これならイケんじゃね? な、マスター!」

「本気でやるつもりかい?」

「えー、いいじゃんよー。ひとり一曲ずつ、好きなの選んでいいっつったの、マスターじゃねぇか」

「言ったけどねぇ……」

なんだか渋い顔のマスターを尻目に、響也は僕のところに五線譜ノートを持ってくる。

「俺、これやりてぇんだよ。和音、弾けんだろ?」

顔に押し付けられたノートを引き離し、パラリと捲る。

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