Raindrop
タイトルには『小フーガ』と書いてあった。

最近学校の授業で習ったJ.S.バッハのオルガン曲『フーガ ト短調 BWV 578』、愛称は『小フーガ』。

しかし。

お馴染みのあの旋律がヴァイオリンから始まるまでは良いのだけれど、ドラムが入った直後に、ピアノは高音部へ向かう6度の二重グリッサンド(鍵盤に爪か指の腹を滑らせる奏法)。

……派手だ。

その後も叩きつけるような連打が続き、原曲の荘厳なパイプオルガンからは懸け離れた、ロック調の激しさになっている。

バラードすらきちんと弾けていない僕には、一体どんなリズムになるのか、想像するのが難しい……。

「……これ、編曲は君が?」

「おうよ!」

「何故バッハをこんな風に」

「ぜってーこっちのがカッコイイと思って、授業中頑張って書いてたんだ。同じ旋律の繰り返して暇で暇で眠くなってさぁ」

「いや、それがフーガの美しさだから」

授業中に一体何をしているのだろう、彼は。

胡乱な目を向けると、響也は口を尖らせた。

「だってよー、親父どもは静かな曲ばっかり選びやがるんだ。一曲くらいさ、ちょっと派手なの欲しくね?」

「気持ちは分かるけどねぇ……」

マスターは苦笑い。

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