Raindrop
「な、和音、こんくらい弾けんだろ? 俺が弾けたんだからお前に弾けないなんてこと、ねぇよなぁ?」

ニヤリと笑う目は、分かりやすい挑発。

そんなものに乗るか、とは思うけれど……。

血が騒ぐのも、また事実。

「……弾けないことはないよ。ただ、僕は最近ピアノをやってない。少し練習しないとこれは無理だよ。リズムの取り方も教えてもらわないと駄目だね」

「じゃあ練習だ! みっちり教え込んでやるからな!」

きらきらっと光る響也の目。

マスターは影で苦笑しながら溜息。


そういうわけで、10日近くずっとジャズの練習をして、9月最後の土曜日の夕方からその音楽祭に参加。

人前で演奏することには慣れていたつもりだけれど、コンサートホールで弾くのとはまた違う雰囲気だった。

夏の残り香が微かに漂う屋外ステージで、たくさんの歓声と熱気に囲まれながら、その場の雰囲気でアドリブを入れながらの演奏。

アドリブに慣れない僕のピアノは、少し頼りなげだったと思う。

それに気づいた響也が、「お前のピアノはこんなモンかよ」と鼻を鳴らし、生き生きと暴れ出した。

ヴァイオリンを掻き鳴らす響也に、「こらこら」とマスターの窘める声が聞こえたけれど。

僕はあえて『喧嘩』を売った。

「僕のピアノはこんなものじゃない」と、響也に解らせるために。

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