Raindrop
本当に、尊敬しているだけなのだけれども。

何か勘違いをさせる要因があるのだろうか。

確かに珍しく人に相談なんてしてみたけれど、それはただ、子ども扱いされたことに驚いただけだ……。

あのときの優しい手の感触がまだ残っているように感じる頭に手をやり、軽く溜息をつきながら地上への階段を上る。


『ごめんなさいね』


そう言って謝る彼女の顔が浮かぶ。

僅かに顔を歪めて、余計な心配をかけたと申し訳なさそうに僕を見る。

謝って欲しいなど思ってない。

ただ、笑っていて欲しい。

ふわりと優しく微笑んで、常に僕の尊敬する人であって欲しい。

それと同時に。

無理に笑って欲しくない、とも思う。

何か問題があるのなら、僕に出来る範囲で、何か出来たらと思う。




薄暗い階段の先は、色とりどりのネオンが輝く裏通り。

昼間は人通りも少なく静かな路地裏には、客待ちのタクシーが何台も停まり、その横を飲み屋から飲み屋へ渡り歩くサラリーマンたちが賑やかに通り過ぎていく。

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