Raindrop
まさかこんなところにいるはずがないと思いながら目を凝らす。

タクシーのドアが開いているので、あれに乗って帰るつもりなのだろうけれど、片方の人が相当に酔っ払っているらしく、もつれ合ったままなかなか乗車出来ずにいる。

その相当酔っ払っている人が、『みこと』と呼ばれていた。

……まさか。

湧き上がる疑念を晴らすべく更に目を凝らすと、『みこと』さんが頭を揺らしながら顔を上げた。

「えー、いいじゃなぁ~い。もう一軒行こうよぉ~う。アキちゃん明日やすみって、いったじゃなぁ~い」

「もう付き合いきれねぇっつってんだよこのおばかっ!」

「ええ~、やだぁ~、アキちゃん、いじわるぅ~」

据わった目に赤い頬。

呂律が回らない喋り方。

でもあのゆるく巻かれた栗色の髪の女性は……『水琴』さんだ。

随分と印象が違うのでなかなか確信が持てなかったけれど、良くみたら午前中のレッスンのときに着ていた服装と同じだった。

「……水琴、さん」

『水琴』さんだと認識しても、まだ信じたくないような気持ちで名前を呼んでみた。

あまりにも……あの白百合のような立ち姿の儚げな印象の彼女とは、違いすぎて。

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