Raindrop
色とりどりの光を散りばめた夜闇を疾走したタクシーは、アキさんの指定したマンションまで無事に辿り着いた。

閑静な住宅街の中にある10階ほどのデザイナーズマンションを見上げ、水琴さんを振り返ると、彼女はドアにもたれ掛かるようにして眠ってしまっていた。

そんな彼女を僕だけではタクシーから降ろすことは出来ず、運転手に手伝ってもらいながら引きずり出した。

水琴さんを横抱きにし、運転手に彼女のバッグを持たせてもらってからエレベーターホールへ向かう。

「すみません、あの、首に手を回してもらえると助かるんですが」

水琴さんの身長は僕とほぼ変わらない。たぶん、体重も同じくらいだろう。

一応、妹を抱っこして歩くのには慣れているのだけれども……自分と変わらない体重の、しかも脱力した状態の人間を抱いて歩くのはさすがにキツい。

「えー……なぁに~……?」

半分夢の中の水琴さんはあまり返事をしてくれない。というか、反応してくれない。

水琴さんの協力は得られないようだ。

ここは自分の力だけで頑張るしかない。

なんとか狭いエレベーターに乗り込み、障害者用の低い位置にあるボタンを押す。

「ええと、5階ですよね?」

アキさんが苛々しながら教えてくれた部屋番号を思い出しながら聞いてみると。

「うーん……たぶんねぇ……」

そんな曖昧な返事が聞こえてきた。

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