Raindrop
「多分ですか……」

溜息をついている間にエレベーターは5階に到着し、痙攣しそうな腕に渇を入れながら、ほんのりと明るい通路を歩いていく。

いくつかの黒い扉を通り過ぎ、503号室と書かれた銀のプレートを見つけた。その下には『斎賀』の表札。

ここだ、とほっと一息つく。

「水琴さん、起きてください。鍵はどこですか?」

「……」

「水琴さん……水琴さーん」

「うにゃぁ……?」

「うにゃあ、じゃありません。鍵をください。外で寝るようになりますよ」

「ああ……カギ~……」

それからしばらく無言。

「……水琴さん、お願いですからまだ寝ないでください」

「うにゃぁ……?」

再度『鍵をください』のやり取りをして、やっとバッグの中にあると教えてくれた。

一度しゃがんで、片手で水琴さんを支えながらバッグを漁る。

……本当は、他人の持ち物を勝手に漁るなどという行為はしたくないのだけれど、仕方ない。

ほどなくして見つけた小さな鈴のついた鍵を、しゃがんだまま手を伸ばして鍵穴へ差し込む。

それからまた水琴さんを抱き上げて、なんとか開けたドアの隙間に足を突っ込んで、思い切り蹴った。

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