Raindrop
しばらく肩で息をしながら、静かな月明かりに照らされる、物が散乱した部屋を眺めていた僕は。

ゆっくりと、目を閉じた。


──見なかったことにしよう。


そう心の中で折り合いをつけ、水琴さんをベッドの上に下ろした。

「んぅ……」

洗濯物の散乱するベッドの上に寝転んだ水琴さんは、僅かに身動ぎしただけで、あとは静かなものだった。

その閉じられた瞳を眺めること数秒、全身から一気に力が抜けていった。

「疲れた……」

溜息とともに膝を折り、ベッドに頭を乗せて床に座り込む。

ずしりと重くなった身体をそのまま休ませたいところだったが、すぐに玄関のドアを開けっぱなしだということと、水琴さんのバッグも玄関前に置きっ放しだということを思い出した。

疲労の激しい身体に鞭を打ち、のろのろと立ち上がって玄関先に置いていたバッグを持ち、差し込まれていた鍵を取ってドアを閉めた。

そうして戻ってきてから、水琴さんの靴も履かせたままだった、と思い出す。

フラフラしながらベッドの足元に屈み、水琴さんの足からストラップつきのパンプスを脱がせた。

そしてもう片方……と左足のストラップを外そうとして……異変に気づいた。

ストラップが足に食い込んでいる。

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