Raindrop
それを聞いた水琴さんは再び部屋の汚さを思い出し、足を引き摺り、何か喚きながら散らばる洋服をかき集め、ベッド横のクローゼットを神速で開け、突っ込み、そして神速で閉めた。

クローゼットを背に、水琴さんは羞恥に頬を染める。

「……何か、色々と、ごめんなさい」

「いいえ」

「あの……余計なものは、見てない、わよね?」

「余計なもの……ですか。ええ、たぶん」

ピンクや黒のレースのついた、見てはならないものならば見たけれど。

それを言ったらクローゼット前で顔を赤くしている水琴さんの頭が噴火しそうだ。

「もう歩かないでじっとしていてください。今飲み物を用意しますから」

笑いを堪えながらキッチンへ戻る途中、テレビ前のテーブルに山積みにされた本に目をやった。

それは本というか、楽譜だった。

すべて僕たち兄妹が今やっている曲のものだ。

開かれた楽譜にはびっしりと書き込みがあり、それでも足りないところには付箋が貼ってあった。

どういう風に僕たちに指導したら良いのか。ここでいつも考えていたに違いない。

それをしている間は、少しでも気が紛れていたのだろうか。

僕たちの存在が少しでも彼女の救いになっていたのだろうか。


──もっと、救えたらいいのに。


そう願う自分に、響也の予言が当たってしまったと、そう思った。


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