Raindrop
2人に両手を引っ張られながらダイニングへ向かうと、縦長のテーブルにはすでに食事の用意が整えられていた。

初鰹と真鯛の昆布じめなどのお造りをメインに、稚鮎南蛮漬、筍田楽、びわの白和え、茎芋胡麻和え、ふきの青煮、小茄子揚げ浸し、さわら西京漬焼……。

「……かなえさん?」

僕は笑顔で、隅に控えているメイド長を振り返った。


──橘家には、『自分で出来ることは自分でやる』という家訓がある。

食事の用意はもちろん、掃除、洗濯などの家事一切を、兄妹で分担してこなさなければならない。

それは父が掲げたもので、父曰く、『なんの苦労もなく育った人間に、良い音が奏でられるわけがない』──そうで。

僕たちは幼い頃からそう躾けられ、年齢が上がるごとに家での仕事を増やされた。

そして今、食事は完全に自分たちで作ることになっている。

今日は花音と拓斗が食事当番だったはず。

しかし、これは……とても2人が作れるような内容ではない。

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