Raindrop
「和音、貴方また女殺し度が上がったわね」

「……なんだい、それ」

「その調子で何人の女の子を騙しているのかしら」

「人聞きの悪いことを言わないでよ。愛する人は一人で十分だよ」

「……言うことがますます奏一郎さんに似てきたわね」

はあ、と溜息をつきながら母が送る視線の先には、関係者に笑顔で挨拶回りをする父の姿があった。

僕に良く似た──いや、僕が父に似ているのか──細身だが長身の父は、ヒラヒラの貴族服もどきのタキシードを着てにこやかに微笑んでいる。

外見は確かに似ていると思うけれど、中身が子どもの父に似ていると思われるなんて、心外だ。

「父さんには似ないように気をつけるよ」

「そうなさい。手のかかる大きな子どもは、一人で十分だもの」

……そんなことを言いながら母は微笑んでいるのだから。

夫婦というものは、解らない。



その父は、今度は水琴さんへ挨拶しに行く。

にこやかに握手を交わした後、隣にいた花音を抱き上げてぐるぐると回り始めた。

同じタイミングで母と吹き出したので、多分、同じところを眺めているのだろう。

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