Raindrop
それを見ている水琴さんもクスクスと笑い──そして、僕と母の視線に気づいた。

ぺこり、と頭を下げるのは、たぶん母に向かって。

母もにこやかに微笑んで軽く手を振り返した。

「本当に、水琴ちゃんに頼んで良かったわ。貴方もだいぶ自分の音を出せるようになったようだし。このまま順調に行けば、あと2年くらいで行けるかしらね」

その言葉に、僕は母に視線をやる。

「……向こうの学校に通わせる気なの?」

「最終判断は任せるけれど、私はそれでも良いと思っているのよ。丁度義務教育も終わることだしね」

長い黒髪を掻き揚げながら僕を見上げる母は、拓斗や花音と同じ、丸くて愛らしい目を細めた。

「コンセルヴァトワールは年齢の下限が決まっていないし。貴方くらいの語学力があれば問題ないでしょう」

「うん……」

「向こうにいれば私も色々と都合がいいわ。ツアーも一緒に回れるし。まあ、来年までゆっくり考えてみて。日本に残るならそのまま高等部の音楽科へ進んでも構わないしね」

「分かった。考えるよ」

考えていなかったわけではないけれど、母のその言葉により僕の将来は随分と具体的になってきた。

あと2年。

中学を卒業後、16歳の誕生日を迎える秋くらいにはパリへ。

そうなると色々と準備することがある。

試験の内容も踏まえて、水琴さんに相談するのも良いだろうか。

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