Raindrop
「そういえば、拓斗はどうなのかしらね。貴方は最初からヴァイオリンをやるって決めてるから、私も力を入れてきたけれど」

「拓斗も行くんじゃないのかな。最近の成長は目覚しいよ」

「そうなんだけれどね……。奏一郎さんが泣くと思って」

「ああ、誰も跡を継いでくれないって?」

「そのつもりで『タクト』ってつけたわけだしね、奏一郎さんとしては。まあ、無理強いするつもりはないのよ。拓斗は拓斗の道を行けば良いのだし。もちろん、貴方もね」

「僕は好きでやっているから大丈夫だよ」

「そう? それなら良いけれど。あとは……花音」

「……花音はね」

僕と母は顔を見合わせ、2人で苦笑する。

慣れない土地で、慣れない人たちに囲まれることに、果たして花音が耐えられるのかどうか。

……多分、無理だろう。

「花音はね、出来る子なのよ。やれば出来る子なの。あの子には才能があるの」

「分かるよ」

「でも……でもね」

「うん」

「……あの甘えん坊が一人立ち出来るのかどうかを考えると……胃が痛くなってくるの」

「はは……」

子育てに関しては放任主義な母も、末っ子のこととなると途端に不安になるらしい。

わけ隔てなく育てられたとは思うけれど、一番下は甘やかす人間が一番多い分、甘えん坊に育つ。……甘え上手の世渡り上手になるとも言えるだろうけれど。

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