Raindrop
「誰か頼もしい殿方でもついてくれれば安心なんだけどね」

「もうそんな心配?」

「心配もするわよ。小6にもなってお兄ちゃんにベッタリなんだもの。……あんなこともあったし」

「……そうだね」

僕たちの視線の先にいる花音はまだ父に抱っこされていて、ぐりぐりと頬擦りされていた。

初めは喜んでいた花音だけれど……だんだん顔が引きつってきた。

「そろそろ止めようかしら」

「そうだね。あのままだと嫌われるよ」

「そしてウザいくらいに落ち込むわね」

「そうだね。面倒なことにならないうちに止めた方がいいよ」

「……行って来るわ」

溜息を残して父の元へ向かった母は、一言二言注意を促したようだ。花音を下ろした父の顔が、見るからにしょんぼりとなる。

苦笑を浮かべていると、また水琴さんと目が合った。

ふわりと微笑んだ彼女は、こちらに歩いてくる。

「お父様は花音ちゃんが大好きみたい」

くすくすと笑いながらそう言う水琴さん。

「ええ。普段離れている分、迷惑なくらい愛情表現が激しいですよ」

少し前までは僕も頬擦りされていた。拒否したら泣きながら止めてくれたけれど。

……花音から拒否されるのも時間の問題だと思う。

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