Raindrop
「愛されるって素敵なことよ。受けた愛は蓄積されて、やがて次の人たちに分け与えることが出来るもの」

父と母、そして花音を振り返る水琴さんの顔は穏やかだ。

どこかで聞いたことのある……と思えば、夏に拓斗と花音が教会で聞いてきた愛の話だ。

「経験談ですか」

「……その反対、かな」

反対、ということは。

愛されていなかった、ということになるけれど。

疑問を投げかけようと口を開く前に、水琴さんは僕の腕に手を添えて、ちらりと視線を上げた。

「あの……和音くん。またお願いしたいんだけど……いいかしら」

遠慮がちな囁き声に、僕は笑みを零す。

「構いませんよ。次のレッスンの後にしましょうか?」

水琴さんに合わせて囁くように答える。近い距離で向かい合い、人目を忍ぶように交わされる会話はまるで蜜事。

……ある意味内緒話に違いないけれど。



“あの日”以来、僕と水琴さんの関係は少しだけ変わった。

同じ“秘密”を共有する者としての関係。

そしてヴァイオリンの師弟関係の他に出来た繋がり。

それは。

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