Raindrop
そのお嬢様が何故今更料理をする気になったのかと言うと。


アキさんに頼まれたこともあり、“あの日”僕は水琴さんに味噌汁を差し出しながら、酒の飲みすぎは良くないと訴えた。

「お願いですから、記憶がなくなるほどお酒を飲むのは止めてください。たまたま居合わせたのが僕だったから良かったですけれど、他の人だったらどうしたんですか。……尊敬する先生がそんな危険な目に遭うのは、僕には耐えられません。今回は怪我もなさいましたし、身体にも良くありませんよ。ですからどうか飲み過ぎには気をつけて。自分の身体をご自愛くださいね……」

優しく、限りなく優しく心配する気持ちを伝えてみたところ、アキさんの言う通り、相当に効いたらしい。

年下の、しかも教え子に心配されて。

それだけでなく、世話もかけて。

それで『大丈夫』だと言い張るほど、水琴さんは礼節を欠いていなかった。

「ごめんなさい……」

素直に反省の色を示し、心配をかけてしまった者の気持ちに報いるために、節制を心がけると約束してくれた。

しばらく酒は控えると言い、食事もきちんと食べて、規則正しい生活をすると決意した水琴さんは。

僕に料理を教えて欲しいと言ってきた。

理由は簡単で、きちんと食事をとるには自炊が一番なのだけれど、まともに料理は出来ない。

ならばどうするかと考えたときに、冷蔵庫に大量においしいものを置いていってくれた人がいた。

その人に料理を習おう。

……そういうことだ。

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