Raindrop
湿気を含んだ風が、誰もいない墓地に佇む僕の髪を躍らせる。

もうすぐ雨が降るかもしれない──そんなことを思いながら膝を折り、地面に置いたヴァイオリンケースを開けて、普段から愛用している『レディ・ブラント』を取り出した。

長年使い続け、もはや身体の一部だと言っても過言ではない、僕のレディ。

かの有名な、アントニオ・ストラディバリが生み出した神秘の音色を歌う貴婦人は、こんな曇り空の下でも気品ある光を放つ。

そんな『彼女』を鎖骨の付け根に乗せ、構える。

纏わりついてくる湿気が嫌だと、レディが囁いた気がした。

「ごめんね。でも……一緒に歌ってくれるよね」



今にも泣き出しそうな重く垂れ込めた暗雲の下、鉛色のプレートに刻まれた名前を見下ろす僕は、いま。

どんな顔をしているだろう。


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