Raindrop
軽い火傷は冷やせばすぐに良くなり、すでに出来上がっていたオーブンの中身を取り出す。

本日のメイン料理、鶏もも肉のホイル焼き。

ピーマンや人参、椎茸などを千切りにして、塩コショウで下味をつけた鶏肉と一緒にホイルに包んで焼くだけなので、初心者でも簡単においしく出来る。

味付けもシンプルで、難しいことは何一つないはずだ。

……水琴さんのように天板を素手で掴もうとしなければ。

「最後にレモン汁をかけて出来上がりです」

「はい、和音先生」

「……先生はやめてください」

苦笑しながらホイルを開く。

少々不恰好な野菜の千切りが見えたけれど、おいしそうな匂いだ。

「だって先生ですもの。……そういえば、和音くんは私のこと、『先生』って呼んでくれないのよね」

そう言われ、ドキリとする。

「やっぱり私が未熟だからよね。和音くんの方が上手ですもの」

「違います、それは……」

確かに最初はそうだった。今までの先生よりも若くて経験が浅くて、尊敬するに値しないと失礼ながら思っていた。

拓斗や花音のように『先生』と呼ばなかったのもそのせいだ。

けれど今は違う。

ヴァイオリン奏者としても、先生としても、人としても……尊敬している。

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