Raindrop
「いたっ!」

額にあたった種は、ころん、と小さな音を立てて床の上に落ちた。

……有り得ない光景だが、水琴さんといると有り得る光景になるのだ。

爽やかなレモンの香りが目を丸くして見つめ合う僕たちを包み込む。

やがて。

「あははは、可笑しい~、何これ~」

手からレモン汁を滴らせながら水琴さんが笑い出した。

笑いすぎて目尻から涙が零れそうになるのをその手で拭おうとするので、慌ててその手を掴む。

「水琴さん、そんな手で触ったら目が大変なことになりますよ」

「ああ、そうよね。今度は泣くようになっちゃう」

なんて言いながら、2人で笑い合う。


──こんな出来事ばかりで、おちおち落ち込んでもいられない。



もっと落ち着いた人だと思っていたのに、僕の中にある水琴さんのイメージは現在進行形でどんどん崩れていく。

最初こそ驚いたけれど、でも……最近はそれが心地良い。


そうして思い知るのだ。

ふわりと大人びた笑みを浮かべる彼女も素敵だけれど、僕はやっぱり。

自分の心のままに感情を表す人の方が好きだと。


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