Raindrop
「もしかして拓斗くんや花音ちゃんにも同じようにした方がいいのかしら」

「どうでしょう……。僕もまだその話はしていないので、次のレッスンのときにでも聞いてみると良いかもしれません」

「そうね、そうするわ」

会話をしながら、水琴さんの箸は進む。

「おいしそうに食べますよね、水琴さん」

「え、そう? でも今日のは一番おいしく出来たと思うの」

ね? と目で同意を求められ、僕は頷いた。

「ええ、回を重ねるごとにおいしくなっていますよ」

「良かった。……最初は炭を食べさせてしまってごめんなさいね……」

「はは、良い思い出ですよ」

最初の料理教室のときには、何の変哲もない卵焼きを作ったのだけれど……僕が少し目を離した隙に、黄色がこげ茶色になってもうもうと煙を吐いていた。

水琴さんは、どうすれば火を止められるのか──ここはクッキングヒーターだけど──さえ知らなかったのだ。

あまりにも煙が出たので、火災報知機が作動してしまい、大騒ぎになるところだった。

……あの頃に比べたら、本当に上達したと思う。

まだ安心して食べれるという感じではないけれど……言うなれば、料理を始めたばかりの若奥様的な味、だろうか。

慣れてはいないのだけれど、一生懸命な感じが愛おしいというか。

「和音くんのおかげでここまで上達出来たの。ありがとう」

……そう言って笑う彼女が、本当にかわいらしく見える。

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