Raindrop
「……どういたしまして」


言ってみたらどうだろうな、と思う。

この気持ちを伝えてみたら、この関係は更に変わるだろうか?

……そんな想いが浮かんでは、泡沫のように消えていく。


「それでね和音くん。今後はクッキーか何か、お菓子を作ってみたいのだけれど」

「ああ、いいですよ」

「ウサギとか、作れるのかしら?」

「作れますけど……ウサギがいいんですか?」

「花音ちゃんと約束をしてしまって」

「花音と?」

「『水琴せんせ~はお菓子作るの得意そうだねっ。どんなの作れる? ウサギさんは作れる?』って……あのキラキラ目で言われて……思わず今度作ってあげると言ってしまったの……」

響也の言うところの『小鹿ビーム』か。

確かにあのキラキラ目は強力で、僕でも逆らえないときがあるのだけれど。

「……水琴さん。出来ないときは出来ないと言って大丈夫ですよ」

「ご、ごめんなさい。でも……あの子達の『水琴せんせ~は大人だから何でも出来る』というイメージを壊したくなくて……せめて花音ちゃんや拓斗くんの前では、優しい大人のお姉さんのままでいたいの……」

……それは、見事に僕の中のイメージを壊してしまったからですか、と心の中で呟く。

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