Raindrop
木枯らしが舞いはじめると、肌を撫でる空気は一気にその温度を下げる。

夏の間はあんなに輝いていた緑はその色を失い、打ち震えるように冷たい風に揺れるだけ。

灰色に染まる空からは、いつ雪が舞い降りてきてもおかしくない……そんな季節になった。



季節が変わっても、相変わらず週一でレッスンを受ける僕。

今日の練習曲はラフマニノフの『ヴォカリーズ 作品34の14』で、それを“歌う”。

ヴァイオリン編曲のものもあるのだが、それを演奏する前に自分の声で歌ってみる。

『ヴォカリーズ』とは、歌詞のない母音だけで歌われる歌曲の総称だ。現在では『ヴォカリーズ』と言えばラフマニノフというくらい、彼の曲が突出して有名だけれど。

そのラフマニノフは言う。『君はその声と音楽性だけで、言葉以上に深く表現できるじゃないか』、と。

言葉の意味を持たない、声のみで曲の持つ表情を表現する。すなわちそれが、楽器を持ったときの表現力向上に繋がる。

ヴァイオリンも意味のある言葉を発するわけではない。母音だけで歌い、表現するのと変わりないのだ。


──と言っても、声での表現は簡単なことではない。

ヴァイオリンでならともかく、声楽家ではない僕はそれほど声量があるわけでもなく、まして、人前で歌うことに慣れているわけでもなく……。

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