Raindrop
くすくすくす、と笑い声が聞こえてきて、僕は歌うのを止めた。

同時にピアノの伴奏も止まる。

「やっぱり照れが見えるわね。恥ずかしい?」

「……多少はそうですよ。慣れていませんからね」

「うふふ、そうよね。そんな和音くんが見れるなんて貴重だけれど、音程は合っているんだからもう少し堂々とね。抒情的に……ロマンチックに?」

ポロン、と白鍵を鳴らす水琴さんは楽しげだ。

確かに僕が照れるのは珍しいと自分でも思う。こんな姿を他人に見せることなど滅多にないことだ。

しかしそれを笑われて良い気分のはずもない。

少し仕返しをしてやりたい、と思ってしまう。

「では、水琴さんが手本を見せてください」

微笑みながらそう言ったら、水琴さんの笑顔が固まった。

「え、私は……」

「水琴さんの美声を聞けば、僕も少し落ち着くと思います。宜しくお願いします」

「そ、そんな……私、歌はあまり……」

「いつも仰っているじゃないですか。音楽とは心で奏でるもの。そうですよね」

「う……」

「ロマンチックに……甘い声を響かせてください、『先生』?」

と、椅子に座る水琴さんの隣に立ち、僕が伴奏しますと微笑む。

「……意地悪な和音くんが出たわね」

水琴さんは眉を潜めた。

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