Raindrop
睨まれているような気配がするけれど、歌は止まないし僕も伴奏を止めない。

緩やかに繋がっていくメロディアスなパッセージが心地良い。

重なる音は終わらせるのが勿体無いくらいに……甘いのだけれど。


歌い終えた水琴さんは、僅かな余韻を残した後、溜息をつきながらピアノに顔を伏せた。

「ああもう、何年ぶりかしら……恥ずかしかった……」

「お上手ですけれど……声楽をやっていたんですか?」

「いいえ。和音くんと同じよ。私が師事していた先生に同じことをやらされたの。思春期の頃に大口を開けて歌えだなんて……拷問だったわ」

「……僕もやらされているのですが?」

「それは……やっぱりね。表現力を磨くのには確かに良い方法だから。和音くんは技巧的にはもうプロだし、あとは表現力を……と思うとね」

少しだけ顔を上げ、微笑む水琴さん。

「成る程」

僕は頷いて、立ち上がった。

「では、今度は僕が歌います。水琴さんの言う通りにしていれば、必ず伸びると信じていますから」

僕の言葉に水琴さんは目を丸くした後、ふわりと微笑んだ。

「信頼してくれるのね。嬉しい」

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