Raindrop
促されるままにソファに座り、目の前に並ぶご馳走を眺める。

「いつの間に、こんな」

作られたものはそんなに難しいものではないけれど、先週までクッキーの形もまともに作れなかった人がここまで出来るなんて、という驚きがある。

「ふふ、この一週間頑張ったのよ~。アキちゃんに教えてもらいながらね」

「アキさんに?」

何故僕ではなく? という思いが声に出ていたのか、グラスにジュースを注ぎながら水琴さんはクスリと笑った。

「だって、和音くんへお礼するのに、和音くん本人に教えてもらうのもどうかと思って。でも、やっぱり先生は和音くんがいいわー。アキちゃんすぐ怒るんだもの。なんでこんなことも出来ないのよ! って……」

ベリーショートの似合う気の強そうなアキさんが怒鳴る姿は容易に想像出来た。

「でも耐えたわ。和音くんにおいしいものを食べてもらおうと思って。見た目は悪いけど、味はおいしいはずよ? アキちゃんの厳しい評価に何度も泣かされながら頑張ったんだから」

……泣いてアキさんに縋る水琴さんの姿も、容易に想像出来る。


水琴さんの努力が見える、不恰好な料理。

僕のために作られた料理。

それを前にして、なんだか胸が一杯になってきた。


どうしよう。

嬉しい。

嬉しすぎる。

緩みすぎる口元を隠さなければならないほどに。

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