Raindrop

僕へのプレゼントはそれだけではなかった。

僕に飲み物を持ってきてくれた水琴さんは、テレビ横に置いていたヴァイオリンケースを開けた。

そして僕と向かい合うように立つと、軽く咳払いをする。

「『斎賀水琴』のリサイタルにようこそ。今日は貴方の聴きたい曲をリクエストして頂戴ね。何でも弾くわ」

と、ヴァイオリンを構えた。

「……弾いてくださるんですか?」

「ええ」

新進気鋭のヴァイオリニスト『斎賀水琴』を僕が独り占め出来ると言う、なんとも贅沢な話に心が躍った。

超絶技巧の技を間近で見せてもらうのもいいし、水琴さんの表現力の豊かさを前面に押し出せるような癒し系の曲もいい。

弾いて欲しいものならば山のようにあるのだけれども。

一番初めに出てきた曲は、この間聴いたばかりの。

「『ヴォカリーズ』を」

水琴さんの歌は聴いたけれど、演奏はまだ聴いていなかった。

「歌いながら」

と冗談で言うと。

「和音くんも一緒に歌ってくれるのならいいわよ?」

と微笑みながら返された。

今日は水琴さんのヴァイオリンを楽しむ日だ。僕は首を振り、大人しく聴いていることにした。

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