Raindrop
この他にもパッヘルベルの『カノン』、シューベルトの『アヴェ・マリア』などクリスマスにちなんだ曲や、サラ・サーテの『カルメン幻想曲』、ラヴェルの『ツィガーヌ』などの超絶技巧曲も弾いてもらった。

どれも素晴らしい演奏だったのだけれども、一番胸に響いたのはヴィターリの『シャコンヌ』だろうか。

T.A.ヴィターリ作曲『シャコンヌ ト短調』

『シャコンヌ』と言えばヴィターリかバッハか、と言われるくらいに有名な曲だ。

ヴィターリの作曲ではない、という説もあるのだが……聴く者にとってその辺りはどうでもいいと言える。

とにかく素晴らしい曲だ。

水琴さんが弾いているから余計に、なのかもしれないが。

10分あまりの曲中には巧みな転調が幾度となく差し入れられていて、甘美なメロディは心の臓を鷲掴みにされ、息も出来ぬような悲劇的展開をみせる。

ピアノ伴奏なしでもこの迫力。

息をするのも、心臓の音を鳴らすのさえも惜しい。

ヴァイオリンの音だけを耳で、目で、全身で受け止めたい。



水琴さんも相当入り込んで演奏していたのか、静かに曲が終わった後も、しばらく『演奏家』の顔をしていた。

拓斗のように、彼女もまた曲を弾いている間は声をかけるのも躊躇うほど、別人のように鋭い光を放っている。

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