Raindrop
何これと言われても、特に珍しいものが入っているわけではない。

ただのケーキだ。

生クリームを伸ばした台に、玄関ドアに飾ってあったリースのようなピンクの薔薇をふたつほど飾ったシンプルなもの。

花束にすると気障だと言われそうなので、ケーキの上に飾ってみたのだけれど。

「和音くんが作ったの?」

「ええ、まあ……」

「私のために?」

「そのつもりでしたが、でも……」

ちらり、とテーブルの上のもこもこチョコケーキを見る。

まさかこんなサプライズが用意されているとは思っていなかった。プレゼントの選択ミスだ。

「え、ちゃんと頂くわよ? 和音くんが作ってくれたのですもの」

「ひとりで食べるつもりですか?」

「ええ。その代わり、和音くんには私の不味いケーキを食べてもらうわ」

悪戯っぽく微笑んだ水琴さんは、「ありがとう」と言って僕のケーキを冷蔵庫へ運んでいく。

その後姿を見ていた僕は、ふと思いついて立ち上がった。

「水琴さん。あの、僕からもプレゼントにヴァイオリンを弾いてもいいですか」

「え? ええ、弾いてくれると嬉しいわ。私、和音くんのファンなのよ?」

そう言い、水琴さんは自分のヴァイオリンを貸してくれた。

僕だけがこんなに素晴らしいプレゼントを貰ったのでは水琴さんが割に合わないだろう。何か僕に出来るプレゼントをしなければ、とヴァイオリンを構える。

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