Raindrop
「帰ります」

このままここにいるとマズい。

意識が飛んで倒れてしまう。

「和音くん? もっとお水飲まないと駄目よ、ここに座って……」

そう言う水琴さんの声がふにゃふにゃしてきた。

水琴さんの声がおかしいのではない。

僕の頭がおかしなことになっているのだ。



橘家の人間は極端に酒に弱い。

遺伝的なものなのだろうと思う。

拓斗は母に似たのか、それほど弱くはないのだけれども、花音なんかは料理に使うリキュールの匂いだけで倒れる。

僕もそれと大差ない。

アルコールには敏感なはずなのに、よほど舞い上がっていたのか……グラスに注がれたものがお酒だとは気づけなかった。


ヴァイオリンを弾いて血流が良くなっていたのも手伝って、アルコールは急激に身体に回ったらしい。

リビングのドアを開ける前に、僕の身体は壁にぶつかり、そのまま崩れた。

「和音くんっ!」

水琴さんの声が、遥か彼方から響いてくるみたいに聞こえる。

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