Raindrop
真っ直ぐに、射抜くように見つめて。

水琴さんの柔らかな髪を、そっと耳にかけてやった。

「あ……え、ええ、謝らないで……だいじょう、ぶ……」

頬を染めたまま僕を見る彼女の目に少しだけ警戒心が灯ったのを見て、思わず口元を緩めた。

何故だろう。

何故、こんなにも嗜虐的な気分になっているのだろう。


微かに笑みを浮かべた僕の顔が、水琴さんの目にどう映ったのかは分からないけれど、戸惑い気味に揺れる瞳で僕を見つめながら、ゆるりと後ろに身を退いていった。

だがソファ横に立っていた彼女のすぐ後ろは窓硝子。

はらはらと細雪が舞い降りる灰色の壁に、逃げ場はない。


「和音くん? あの……」

トートバッグを握り締め、なんとか平静を保とうとしている水琴さんの肩横に左手を置いた。

窓越しに外の冷え込んだ空気が、ひやりと伝わってくる。

「“あれ”が貴女にとって大したことではないのなら、今、同じことをしても許していただけるのでしょうか」

「な、何を言っているの……からかっているのね?」

「からかってなんかいませんよ。あのときも、今も……僕は本気です」

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