Raindrop
まったく僕を意識していない人になんか、想いを伝える勇気はない。

けれど。

今の水琴さんになら、言えそうな気がした。

──酷く嗜虐的な気分になるのは、やっと僕を視界に入れてくれたことが嬉しいからなのかもしれない。



至近距離から見つめられることに耐え切れなくなったのか、水琴さんはふい、と顔を逸らし、僕の横をすり抜けていこうとした。

それを阻止するため、右手も窓硝子について完全に閉じ込める。

「……冗談はやめて」

「どうして冗談だと?」

「だって、私は先生よ? こんな年上の……貴方から見ればおばさんじゃない……こんな風に大人をからかって、遊びたい年頃なのよ。そうよね?」

「僕はそんな風に見えますか」

「そ、そうじゃ、ないけど……」

俯いたまま口ごもる彼女の頬に右手を添えて、正面を向かせる。

怯えたような目の彼女に、少しだけ胸が痛んだけれども。

でももう、引き返せないのだ。

「からかっているわけでも、冗談を言っているわけでもありません。僕は、貴女が……好きです」

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