Raindrop
ドアの向こうから聞こえてきた声に、水琴さんは一瞬ほっとしたような顔をした。

これで開放されると思ったのだろう。

けれどそう簡単に逃がすわけにはいかない。

僕だって、安易に告白しているわけではないのだ。『勘違い』だなんて思われたまま終わるわけにはいかない。


僕に動く気がないと悟った水琴さんは、安堵の顔をまた困惑へと戻し、片手で僕の胸を軽く押した。

「花音ちゃんが……」

「そうですね」

「見られて」

「別に構いません」

「和音くんっ……」



「おにーちゃーん?」

返事がないのを不思議に思ったのか、もう一度花音の声が聞こえてきた。

カチャリ、とドアノブの回る音がする。

それでも僕は動く気はなかった。

すると戸惑いに揺れていた水琴さんの目がキッと鋭くなって。

窓に張り付いていた彼女の身体がふっと離れた瞬間に、僕の唇に自身のそれを重ね合わせた。

ほんの少し。

掠めるほどの微かな触れあい。

けれども僕を驚かせるにはそれで十分だった。

一瞬だけ緩んだ『檻』から、水琴さんはするりと逃げていく。

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