Raindrop
「それに、お前知ってたか? センセー、高校んときから付き合ってた男がいたらしいぞ。それも無理やり別れさせられたって話だ。 ……いくら家のためとはいえ……なんか、なぁ……」

そう言って、響也は心配そうに僕を見た。

「……どうすんだよ」


どうする、と言われても。

……何も。

何も出来ることが思い浮かばなかった。


経済的支援?

父に頭を下げればどうにかなるかもしれない。けれど、会社経営が一度や二度の支援でどうにかなるほど甘いものではないことくらい、僕にも分かる。

それに、一時的に凌ぐだけでは駄目だ。

本当の意味で救うには、しっかりとした経営者が必要だ。


ならば、水琴さんを連れて逃げる?

望まない結婚なのだとしたら、それも、手段のひとつか?


……そんな馬鹿なことが出来るはずもない。

社員の命運もかかっているのだ。

中小企業ならば従業員は二百はいるはずだ。

斎賀の社員のために身を差し出したというのならば、それを捨てさせることなど、とても出来ない。

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